2013年に突如巻き起こった3Dプリンターブームが落ち着き、「実際にできること」の認知が広まった感じのある3Dプリンター。革命的とまで呼ばれたテクノロジーは人々に過度な期待を抱かせ、それに応えることができずにひっそりと表舞台から姿を消したように思われます。
確かに現存する3Dプリンターは「工作機械」であり、その活躍の主戦場は製造業を始めとするビジネスの世界にとどまっています。(家庭への普及を目指したCubeは生産中止という結末を迎えました)
ある意味で失速気味な印象すら感じられる3Dプリンターが本当に世界を変える日は来るのか。2年前、fabbitのオープンセレモニーで初めてIOTの話を聞いた時から、3Dプリンターがネットにつながったらどうなるのだろうとイメージを続けていました。
そこで今回は3Dプリンターがネットにつながると起こりそうな面白いことを、最近の事例と絡めて考えてみたいと思います。
1 : 体調に合わせてサプリメントを調合してくれる
ウェアラブルデバイスは私たちの体から様々なデータを収集し、そこで得た情報を分析して新しい価値を生み出してくれます。一つのデバイスから収集したデータだけでなく、他で収集されたデータと横断的に情報を共有し、分析できるオープンな環境が整えば、ひとつのデータを様々なデータと関連付けて分析することができるようになり、導き出されるソリューションも幅が広がるようになります。
欧州で行われている取り組み「Performance」は、日々の体調や健康状態からデータを収集し、最適な食事をプリントして届けようとするもの。分析して得られたデータから食事を最適化しようとする活動がすでに始まっているのです。
フードプリンターの特徴として、材料の調合とカスタマイズが容易であることが挙げられます。形状を変えられるというのも一つの魅力ではありますが、材料を調合することで栄養バランスをカスタマイズできるようになる点で注目しています。
先ほどの事例は高齢者向けの取り組みではありますが、健康に気を使う人すべてに応用がきく可能性を秘めています。その流れはこうです。
- ウェアラブルデバイスから得られる健康状態をデータとして収集
- データを分析し、摂取すべき栄養を割り出す
- スマホに「サプリを作りますか?」と通知が届き、YESをタップするとプリンターが動きだす
- 数分後、最適化されたサプリが完成する
市販されているサプリメントは量産されているもので、必ずしも自分のコンディションに合っているとは限りません。フードプリンターはネットにつながることで、自分だけの管理栄養士になってくれるかもしれません。
2 : 交換パーツを事前に造形
モノから様々なデータが収集できるようになることで、これまでは予測できなかったことも、事前に把握できるようになりました。コマツの建機に搭載されているKOMTRAXは、建機の情報を逐一把握することで故障の兆候を感知し、壊れる直前にサポートスタッフを向かわせることで修理のコストを削減することに成功しています。
ここから見えてくるのは、交換パーツが必要になる時を予測するデータを3Dプリンターをつなぐことで、パーツを事前に造形しておくことができるようになるという点です。
壊れてしまってから対応するのは何かと手間がかかります。メーカーに問い合わせて状況を説明し、在庫の確認から発送まで、かなりの時間がかかります。(交換パーツにお金を払わないといけないケースもあります)
3Dプリンターとデータがつながっていれば、故障の兆候をスマホの通知で受け取ることができ、プリントボタンをタップして前もってパーツを作っておくことができます。
すでに生産されていないパーツであっても、データが備えられていれば問題がなく、メーカーに対応をお願いする面倒を省くことができます。
3 : 症状に合わせて薬をカスタマイズ
私たちが処方されている薬は、大衆向けに作られたモノであって、必ずしも最適なものとは限らない。ここに着目して進められているのが、患者の性別や年齢、臓器のコンディションや病状といったデータから最適な薬を調合するアルゴリズムの開発と、そこで生成されたデータをもとに薬を3Dプリントするテクノロジーです。
個人に最適な薬が調合できることで、副作用を減らし、効果を増大できるとして期待が高まっています。すでに実験も行われており、実用化もそう遠い先の話ではないでしょう。
得られるデータがより多種にわたり、日々取得するデータと合わせて分析できるようになれば、作られる薬もより精度が高くなることでしょう。3Dプリンターはデータとつながることで、ひとりひとりの体調を知り尽くした薬剤師になるかもしれないのです。
工作機械として活躍している3Dプリンターがこれからどんな進化を見せていくのか。これからも目が離せません。
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